場外〈Wins〉のはなし(2)

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渋谷場外周辺の祈祷師風予想屋

渋谷駅東口、明治通りを恵比寿方面に5分ほど歩き左に曲がると渋谷場外が見えます。建物の正面入口手前の一角には、白装束に身を包んだオヤジさんが、1メートル四方ぐらいの白い布の上に胡坐をかき、何やら修験者風の演出をして陣取っていました。頭に巻いた白い鉢巻きには千円札が五枚ほど差し込まれ、その布の周りには20人ほどのやじ馬が二重、三重に輪になって前の人の頭越しに見物しています。だいたい見物人は暇ですし、興味半分に冷やかし半分、時間潰しといった表情がにじみ出ています。
場外の入口近辺でショーバイをしているのだから当然予想を売っているのであります。装束の男は透視術の達人だということをアピールします。そして客が暖まってきたころを見計らっておもむろに、傍においてあった茶わんを手に持ち頭上に掲げるると、反対の手に持った二つのサイコロをその茶わんに「チンチロリン」と投げ入れるのです。頭上の茶わんの中にあるサイコロですからとうぜん男には見えません。

そこで「これから茶わんに入った2つのサイコロの目をピタリと当てますよ」と何やらもったいぶった口調で言うと見物人の好奇の目が茶わんの中に注がれます。とは言っても競馬開催時はいつも同じところに陣取っているので、見慣れた光景ではあります。かくいう自分も何度となく見物していました。
しばし念を入れて透視に全集中している様子を演出していますが、やや上目づかいのようにも見える視線の先にはお仲間の人が何やらサインを出しています。透視が済んだ装束の男は自信に満ちた声で「1と5が見えた」と告げますが見物人の反応は特になく、お仲間と思しき人が「これは凄い」とか言って場を盛り上げようとします。漫才師のボケとツッコミのように二人のイキがピッタリ。


お二方のやり取りの後「今日のレース予想がここに書いてある」というわけで予想を売ります。その時に忘れてはいけない儀式があるわけで「ヤッー」と腹の底から声を出し、紙を手でパンと叩いて気を入れるのであります。これも予想屋さんの数ある手法の一形態です。

昭和49年の馬券は薄い紙にパンチ穴で情報が記されていました。左の馬券は〈昭和49年・4回中山競馬・4日目・9レース・連複2−7・500円〉となります。券種は「単勝/複勝/枠連」の3種類しかなく、2−7の馬券は2−7の穴場で買い求めると言うように、穴場ごとに売っている馬券が違いました。馬券は伝票のように1冊100枚が綴られ、客が求める金額に応じて手際よく冊子から必要枚数を引きはがして穴場から渡してくれます。渋谷の場外は特券と呼ばれる千円券と五百円券の発売でした。

私ごとではありますが、渋谷場外の悲しい想い出がよみがえってきました。その昔、彼女とデートと相成りました。待ち合わせが渋谷だったので、その前に馬券を買ってからと思い雨のなか浮かれ気分で場外に向かいました。当時はまだフロアーごとに発売レースが異なっていたのが悲劇の始まりでした。馬券を買ってもラジオ中継を聴いていないのでレース結果は分からず、唯一テレフォンサービスといってレース終了後、提供会社に電話をかけると「8レース、2-5、1,380円。9レース・・・・・・」といった音声テープが聴けました。公衆電話に10円を投入してダイアルをすると話し中。そうですレース終了直後は回線が混みあうのでなかなかテープを聴くことができません。レースを観ていないので、ドキドキはレースではなく電話を掛ける時に味わいます。結果2レース分が的中していました、馬券を確認するまでは。そうです!フロアーを間違えていました。教訓、浮かれ気分で馬券を買うな!

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